「おしゃべりが上手い人の特徴」として挙げられることの一つとして、「たとえ話がうまい」というのがあります。
さまざまな経験値から語彙力や表現力を駆使し、違った角度から共感を引き出す技術はそう簡単なものではありません。
とある出来事や感情を、違う事柄に置き換えて表すというのは、創作における「比喩」と共通点がありますよね。
比喩
あるものごとを別のものごとに見立てなぞらえる表現
比喩は、文章表現の特権です。上手に使うことでストーリーや描写に深みが出て可能性が広がり、奇跡のような一文を生み出すこともできます。
ただし、使い方にはコツがあります。やたらめったら頻発するのは危険信号。
たとえ話だらけだと本質が見えなくなりますし、比喩表現は印象に残るのでトゥーマッチになってしまうことも。
いろんな種類の比喩表現
少し、学生時代の国語の授業をおさらいしてみましょう。
直喩(明喩)
直喩は、「~のような」「~みたいな」などの直接的な表現を使って、わかりやすく例える方法です。
- 太陽のような人
- お母さんみたいに優しい
隠喩(暗喩)
隠喩は、「~のような」「~みたいな」などの表現を使わずに、あるものを別のもので例える方法です。
- 人生は長い旅だ
- おばあちゃんは一家の知恵袋だ
諷喩
諷喩(ふうゆ)は、例えだけを示し、例えられているものが何かを推測させるものです。
- 我が家のプリンセスによると、このお洋服はお気に召さない。
提喩
提喩(ていゆ)は、上位概念を下位概念で、または下位概念を上位概念で表す方法です。
- 親子丼を食べに行こう。
- 今日は花見だね。
※親子は鶏と卵であること。花見は“桜を見る”ことを想定。
換喩
換喩(かんゆ)は、何かを表現するとき、その事柄と隣接しているもの(深く関係しているもの)で置き換えることです。
- 永田町は慌ただしい動きを見せています。
- ◯選手は、ついにユニフォームを脱ぎます。
- 私、本日をもって、舞台を去ります。
※永田町=日本の政界の中心
「スポーツ選手の引退=ユニフォームを脱ぐ」という「引退する」ことを表す換喩はたくさんあります。集めてみるとおもしろいですよ。
- マイクを置く
- フィールドを去る
- リングを下りる
- 筆を折る
- スパイクを脱ぐ
- バッジを外す
- 看板を下ろす
- スパイクを脱ぐ
- マウンドを去る
などなど……。それぞれ、どのスポーツ、職業かわかりますか?
活喩
活喩(かつゆ)は、無生物を命があるもののように扱うことです。
- 今にも泣き出しそうな空
- ペンが走る
このように解説してみると「意識せずに使っている」比喩が圧倒的に多いですよね。
とくに日本語は「〜のようだ」という直喩以外の比喩表現が無限にあります。
- 指をくわえる
- 肩を入れる
- 腕が良い
などの慣用句も比喩の一種と言えます。どの表現もすっかり私たちの生活に馴染んでいます。
効果的な比喩の使い方
ここまで、比喩って素晴らしい。最高の日本語表現とお伝えしてきましたが、ずばり一番比喩を魅力的に使うために大切なのは「使いすぎないこと」です。とくに直喩である「〜のような」は極力避け、引き算を意識するのが賢明です。
危険性としては、
- 使いすぎると陳腐に見える
- 自分に酔ったポエムっぽくなってしまう
などがあります。
少々辛辣ですが、たとえばバトルものの作品でも必殺技の連発は、得策とは言えません。ここぞというときに最高の比喩表現を見せつけましょう!
一方で「玉を転がすような声」のような、枕詞のように使われている表現をあえて使うことが大切な場面もあります。それは「ああいう声ね」と、読者と作者が共通認識を持ちイメージを合致させるための便利なツールとなります。
「瀕死のインドシナウォータードラゴンのような目」と書かれていても、ほとんどの読者には伝わらず「どういう目?!」となりますが、「腐った魚のような目」は一発でイメージがわきますよね。
強調表現としての比喩
「明るい女性」を強調したい場合「とても明るい女性」となりますが、「太陽のように明るい女性」と書き換えるとその人物が立体化します。「とても強い風」を「唸るような強い風」として強調してみたりと、何かと使いやすい比喩表現です。
隠喩は難しい!
だからこそ、「うまい!」と言われせる表現もできます。
「彼女は天使ようだ」よりも「彼女は天使だ」の方が、強く鋭いインパクトを与えますよね。ただ、断定的な書き方は難しく、受け取る側の解釈もひとそれぞれなので、慎重に使うのがベター。
比喩は作家性が出やすい?
“日本語の表現”を極めていく純文学の世界では、ものすごい技術かつ“癖の強い”比喩が日々生まれています。
とくに村上春樹さんの独特の比喩表現を思い出す人も多いかもしれません。
一例を挙げると、
陰毛は行進する歩兵部隊に踏みつけられた草むらみたいな生え方をしている。(引用:1Q84)
スカートはぐっしょりと濡れて彼女の太腿に身寄りのない子供たちのようにぴったりとまつわりついていた。(引用:世界の終りとハードボイルドワンダーランド)
彼女は気取ったフランス料理店の支配人がアメリカン・エクスプレスのカードを受け取るときのような顔つきで僕のキスを受け入れた(引用:国境の南、太陽の西)
これぞ村上春樹節と言える独特の世界観があります。
この「わかるような、わからないような」絶妙なラインを繰り広げることで作品を彩っていくのが純文学の表現。
物書きにとって大切な作家性を表しています。
比喩を制するものは文章を制する!
比喩の使い手になれば、文章は格段に魅力的にになります。「比喩を制するものは文章を制する」を合言葉に、表現力を身につけていってくださいね。