小説を書く皆さんなら「一人称」「三人称」という言葉は聞き馴染みがあると思います。
ご存知の通り、“一人称”は僕、私、俺、など“I‘の主人公視点で語られる作品。“三人称”は「桃太郎が」「シンデレラは」など“He”“She”で語られる視点の作品です。
一人称と三人称小説、どっちが書きやすい?
どちらを選ぶかは完全に書き手の好みです。
ただ、かつては私小説といわれた分野、純文学、一般文芸は一人称が多く、いわゆるエンタメと言われるミステリー、サスペンス、SFなどジャンル小説は三人称が多いと言われていました。
たしかに、近代文学の文豪に始まり、村上春樹さんや吉本ばななさんなど、目に映る状況や自らの心の動きを細かに描く作品は一人称のイメージがとても強いですよね。
一方、三人称と言えば、西村京太郎さん、山村美紗さん、伊坂幸太郎さん、東野圭吾さんなど複雑で目まぐるしく展開する物語を紡いで行く作品というイメージがあります。
ただ、最近はその傾向に限りません。
平成半ばくらいまでライトノベルは三人称の作品が多かったのですが、今は転生ものを筆頭に一人称が多く占めています。小説サイトに投稿する作品はまるで日記のように記していく傾向があるので、一人称の相性が良いとも言えます。
小説で一人称視点のタブーは?
一人称は思いの丈を綴っていく、主人公が見えている風景を描く、などモノローグ感覚で筆が進む一方で、「主人公の視点以外の情報は何も書けない」というかなりストイックな制限があります。
主人公が知らないことは何ひとつ書けないので、状況説明が必要なファンタジーやSFを書くのはなかなかの技術や工夫が必要です。
たとえば新しい登場人物が現れたとき、そのキャラが名乗らない限り、名前すら書くことができません。また主人公がたとえば15歳なら、その年頃の語彙や口調を逸脱することもできません。「主人公が知らないことは一切書けない」というのは、一人称の執筆のおもしろさでもあり、難しさでもります。
一方で三人称は視点を固定しない分、書きやすさがあります。ただ、とはいえ現在は「神視点の三人称=全てを俯瞰して全知全能」より「一人称視点の三人称=視点は主人公にほぼ固定」の方が一般的で、三人称一元視点とも言われます。シンプルに視点固定の一人称小説の「僕が」を「桃太郎が」に変えただけ。それはそれで縛りがない分、文章としては書きやすいです。
やはり、登場人物がそれぞれの視点が欲しいサスペンスなどは三人称ならではおもしろさがあります。一人称小説は日記のように感情移入できる一方、目まぐるしく展開していく物語をグイグイ読ませるのは三人称ならではではないでしょうか。
一人称と三人称小説のメリット・デメリットは?
一人称小説の
メリット・デメリットメリット | デメリット |
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読者と主人公が同じ目線で物語を体験できる 日記のように思いの丈を書き綴れる 心理描写をしっかり丁寧に書き込める 感情移入しやすい 小説が苦手な人でも読みやすい | 主人公が知らないことを一切書けない 固定視点なので物語を多角的に表現するのが難しい 主人公以外の登場人物たちの思いを描けない |
三人称小説の
メリット・デメリットメリット | デメリット |
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さまざまな登場人物の視点で描ける 状況説明を丁寧に書けるので物語を展開させやすい “犯人が誰か”など謎をしっかり隠せる 言葉遣いや表現に制限ないので、ストレスを感じない | 結局「一人称ベース」にしないと、視点が定まらなくなってしまう 感情移入という点では一人称に劣る 小説が苦手な人は読みづらさを感じる 地の文がおもしろみが書ける説明的な文章になってしまう場合も |
書き手さんの中でも「一人称が得意」「三人称が得意」は、それぞれ分かれるところ。どっちで書こうか悩んでいる人は、まずは“読者として読みやすい方”を選んでみるのがおすすめですよ。