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【インタビュー】同人誌印刷所「ねこのしっぽ」の知る人ぞ知る裏側に迫る|業界をよくしたい、楽しいことをしたい

国内に数多くある同人誌専門の印刷所。しかし、実のところ、「印刷所の名前は知っているけれど、それぞれの特性が分からない」ということも多いのではないでしょうか。

今回は川崎市にある同人誌印刷所「ねこのしっぽ」さんを取材。代表取締役の内田朋紀さん、専務取締役の荒巻喜光さんに「ねこのしっぽ」の魅力について聞いたほか、受付の富田さんに口コミ評価の高い電話対応の秘訣についてお聞きしました。

写真右から代表取締役の内田朋紀さん、専務取締役の荒巻喜光さん

できることなら全てのお客様の要望に応えたい

――まず、初歩的なところになってしまうのですが、同人誌専門の印刷所と一般の印刷所はどういったところが異なるのでしょうか。

内田さん:1番の違いは、同人誌メインの会社は、お客様ひとりひとり個別対応を行っているところですね。お客様がどういった同人誌を作りたいのか、お見積りもどれぐらいかかるのかなど、大枠の概要はありますが、丁寧にご要望を伺って反映することができます。

もう一点は同人誌即売会と関係が構築されていること。同人誌即売会によって運営の仕方や、搬入の時間、方法も違うのでいきなり参入しようとしても対応できない部分が多いですね。

――確かに、個別に対応してもらえるのは、お客様にとっても嬉しいところですよね。

内田さん:正直、対応や連絡だけで1日が終わるという社員も多くいます。見積りなどや入稿など、一気にWebで行えばコストカットはできますが、サポートは丁寧に続けていきたいな、と思っております。

お客様と友達のような距離感で

受付の富田さん

――「ねこのしっぽ」さんの電話対応などが丁寧だと感じていらっしゃるお客様も多いようです。品質を保っていらっしゃる秘訣などはあるのでしょうか。

富田さん:会社の方針もありますが、できるだけお客様のお友達に近い、友人のような立ち位置で接客をしよう、という意思統一をしています。

社員もみなイベント側だったり、書く側だったりと同人誌に携わったことがある立場なんです。だからこそ、お客様が1冊の本に対してどれだけの時間と気持ちをかけていらっしゃるかを理解した上で仕事に取り組んでいます。

だからこそ、チェックの段階で仕様やロットの問題だけではなく、「この作品の流れでこのセリフの間違いは致命的じゃないか」というアンテナは張っていますね。

--そんなところにまで!

富田さん:もちろん、時間もありますので、全てを校正することはできないのですが、許される時間内で見つけられるものに関してはでき得る限り対応するようにしております。

――作り手の想いを分かってもらえているのは、お客様としても嬉しいところですね。

富田さん:連絡して間に合うようでしたら、「このようにしてはいかがでしょうか」というアドバイスをご提案差し上げたいな、というのは受付も工場も共通している想いですね。

もしこちらからご要望を差し上げるとしたら、連絡が繋がりやすいと嬉しいです。つながらないと、どんどん〆切が迫ってきてしまい、調整できるところできなくなってしまいますので。

「作り手」だったからこそわかる欲しいもの

――「ねこのしっぽ」さん自体の始まりはどういった形になるのでしょうか。

内田さん:私と専務取締役の荒巻の2人で始めた会社です。もともと印刷会社に勤めていたとかではなく、2人ともサークルでイベントに長く出る側だったんです。神奈川県に住んでいるとなかなか便利な位置に印刷会社がなくて不便も多かったので作った、という感じですね。神奈川にあって、行きやすい場所で、人も多いところ、ということで川崎になりました。

――なるほど、イベントに出ている経験が豊富だからこそ、電話対応にもその点が反映されているんですね。

荒巻さん:サークル側の経験を生かして、「こういうのがあったらいいな」をどんどんサービスとして作っていっているイメージです。

やろうとすると高い値段になってしまうけれど、パーツを変えてなんとかできないかな、とチャレンジしてみたり、うまく作れなかったらいろいろと改良して……同人誌のサービスでうちから始まるものはわりと多いですね。

内田さん:例えば、文庫本に何行何文字入るかというのを12ページ分ごとに作っていってみたり。大きいフォントでも行間を詰めると読みづらいとか、何ポイントのフォントで行間どれぐらい好みのなのかが分かります。あと文庫サイズだとある程度ページ数がないとカッコがつかないので、100ページ分の文庫本の見本代わりにもなっていますね。

――確かに、これは分かりやすいですし、制作する上ですごく参考になりますね。

荒巻さん:最初はイベントでサンプルとして出していたんですが、欲しいという人も多かったので、紙と印刷代分程度で販売するようにしました。

業界をよくしたい、楽しいことをしたい

――技術面でもそういったサークル時代の知見や「あったらいいな」が生かされているんでしょうか。

荒巻さん:印刷機も製本機も、ただ売ってるものを買うのではなく、やっぱり自分が作りたいものを作れる機械が欲しいんですよね。「ねこのしっぽ」が求めるような機械にするために、メーカーの開発の方とお話することも多いです。

同人誌印刷にこのオプションをつけるのはもったいない、と言われることもありますが、そこは妥協しないですね。

内田さん:フルカラーのオフセット印刷についても、うちが参入した当時はほとんどなかったですね。同人誌印刷会社を始めたのは遅かったんですが、フルカラーオフセットを自社で始めたのは結構早かったですね。データ入稿もうちが最初ですね。

荒巻さん:カラーだって自分が思ったとおりの色を出したいから、Japan Colorを取得しました。メーカーには「同人誌で小ロットなのにそこまでする必要があるのか」と言われることもあります。でも、描いた色そのままを出したいじゃないですか。

――常にユーザー目線に立たれている、ということですよね。

荒巻さん:そうですね。少し専門的な話になってしまうんですけど、昔、オフセット印刷にはピンクマスターとシルバーマスターの2種類があって、ほとんどの同人誌印刷会社はピンクマスターでした。ピンクマスターだと、昔のコンビニコピーみたいな感じで、薄くてムラがついているような感じ。でも、シルバーマスターにすればそんなにインクを使わなくても均一なベタが出せるんです。

とは言え、値段が跳ねあがってしまう。いいものが作れるからといって、いくらでも上げていいのかというと、本を作る側からすると違うので、「これぐらいの値段でできて、これぐらいサポートしてくれたらいいな」「こんなサービスもついていたらいいな」というところで、まんべんなくどんなサークル、イベントの人でも使い勝手が良いのがベストかな、と思います。

内田さん:どんな同人誌でも刷ってほしいと言われたら、刷ります。その全てをカバーするというところを目指していますね。

――何かに特化される、というより幅広く対応されている、ということなんですね。

内田さん:頼まれたらなんでも受けよう、というのは思っています。印刷だけではなく、今回の取材もそうですし、同人誌以外でも、損得勘定ではなく、少しでも業界良くなるんだったら、という気持ちです。おもしろいことをやろうよ、というところには参加していっていますね。

あとはあんまり企業らしすぎるのも好きではないんですよ。みなさん趣味で同人誌を作って楽しまれているので、こちらも、会社の中としては楽しい部分を出していこうということで、レーシングチームのスポンサーをやったり川崎でのアニソンライブを会社で主催したり。印刷会社と関係のないところでも楽しさを出していくことで、同人誌と共通する部分っていうのを表現していきたいな、と思っています。そういうちょっと変わった会社です。

(取材・文・撮影=ふくだりょうこ)

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