はじめまして。私は、いわゆる“商業”と言われる場所で作家活動をしています。
商業作家=同人活動ではなく、出版社を通して著作を出版している作家。 ……とはいえ、小説や漫画というジャンルは「プロ」「アマ」の線引きは今やとても曖昧です。
商業作品を発行しながら同人活動をする作家さんもいますし、同人誌から商業デビューする人も多数。
商業作家は「文芸新人賞出身が多い」「出版社の担当編集さんがついている」という点では異なりますが、プロの視点から小説執筆のコツをお伝えしていきます。
当ページのリンクには広告が含まれています(【小説が書けるコツ①】期日までに“書き上げる”
執筆における最難関は、“書き上げる”こと
とにかく、これに尽きます。
書きかけの作品ばかりがたまっていく、駆け出し作家ならぬ「書き出し作家」になっている方、多いのではないでしょうか。
商業作品の場合、文芸誌での連載や、オファーがあって執筆が始まっている場合も多いので、何が何でも書き上げなければなりません。
締切を破り原稿を落とすというのは、“次がない”商業作家にとって命取り。
※同人活動でよくある『次回イベントに回す』という状況がないのです。
自分がクオリティー的に納得していようと、そうではなかろうと、エンドマークをつけること。それが作品における全てなのです。
逆にどれだけキャラが魅力的でも、セリフが素晴らしくても、書きかけでは「作品」とは言いづらいものです。
創作物は書き上げた段階でようやくスタート地点
これを胸に、ぜひ「書き出し作家」を卒業しましょう。 ではどうやったら小説って書き上げられるの? という問いにお答えします。
【小説が書けるコツ②】思いつきで“書き始めない”
「素晴らしいセリフを思いついた!」「こんなシチュエーションで会話させたい」
というきっかけは大切です。ひとまず、1文字目を書いてみようというのは大切ですが、実はこれ、大きな落とし穴があります。
いきおいだけで書き始めると、物語は必ず破綻します。
ストーリーを考えていなかった。書きたいシーンにたどり着かない。
展開が自分でもわからない。
そう思った時点から構成を組み立て直すのは、得策ではありません。思いつきで書いてしまった前半部にしばられ、制限の多いプロットなってしまいます。またいきおいよく書いたシーンは冗長であることがほとんど。ディティールの一つが異常に長くなってしまっているため、そのシーンに合わせると何巻にもわたる大長編……?のバランスになってしまいます。
「このセリフを言わせたい!」というディティール部分で気持ちが昂っているうちに、超作り込んだキャラ設定表と練りに練ったプロットを立てましょう! 早く書き出したくなる気持ちを抑えて、ここに労力を注ぐことで、本編が驚くほどスムーズに書くことができますよ。
【小説が書けるコツ③】カードを使って“書き起こす”プロット管理法
これは本当に作家によりそれぞれですが、私が取り入れているのは「舞台演劇の台本を書く手法」です。
※筆者は大学で演劇学を専攻していました。
文庫本サイズの小説は、平均して400字詰め原稿用紙300枚程度と言われていますが、この途方もなく見える数字が、ものすごく短く感じるメソッドを伝授します。
原稿用紙300枚想定のプロットの組み立て方
ノンブル=ナンバリング
【10】
(登場人物)
太郎、愛子
(物語)
太郎、憧れのアイドルの愛子のコンサートに行く途中に、階段から落ちる。魔法少女に転生してしまう。
(セリフ)
太郎「僕は魔法なんていらない!!!なんとの取り柄もないモブとして生きていきたかったのに!」
愛子「あなた、オーディション受けてみない?」
【300】
(登場人物)
太郎
(物語)
元の姿に戻れそうもない太郎は、YouTuberとして発信していくことを決意。
(セリフ)
太郎「こんにちは。転生系YouTuberタロ子です。信じるか信じないかはあなた次第。今日は、転生したきっかけからお話しましょう。
―――完―――
ラストシーンまで書くためには、30枚のカードが必要となります。
ここにある程度のメモを書いていけば、ストーリーや構成は完璧。
またカードとして可視化できるので、物語を物理的に広げて見渡すことができます。途中でカードの番号を書き換えながら、順番を入れ替えることも。
なぜ、1、2、3ではなく10、20、30なのかというと、10と20の間に物語を入れたいときに、15と書いたカードを挟むことができます。それでもさらに追加するべきだと感じたら13などと、細かく追加することが可能です。
※パソコンのプログラミングと同じですね♪
私の場合は、登場人物もカード1枚ずつで設定表を作っているので、可視化&管理しやすいですよ。
いざプロットを元に書いてみよう!
実は、物語の構成を組み立てることと、文章やセリフで表現していくことは、全く違う頭の使い方をします。どちらも同時進行することによって、脳が混乱を起こし、筆が進まない……または何を書きたいのかわからなくなり、投げ出してしまう……なんて勿体無いことが起きるのです。
どちらが得意かは作家によりますが、別作業としてしまった方がとくにエンタメ小説を書きたいときは効率的です。
なのでここでは、構成、プロットについて小説を書き始める前に完璧に仕上げてしまう。という作業をすることで、あとはセリフや本文に集中でき、スムーズに執筆できますよ。 カードを使ったプロット構成も“可視化”という点で非常に有効ですよ。
そもそも物語を考えるのが苦手な方は..
そんな方こそ、最初は1枚のカードからはじめてみてください。
次に起承転結の4枚が書ければ、最初のプロットの完成です。
もし書きたいセリフがあれば、1枚のカードに書いてみましょう。
シチュエーションが思いつけば、場所や状況を書きます。 それを4枚のカードの間に挟み込み、その作業を続けていけば次第にかたちになっていきますよ。
【1】起
なんの取り柄もない主人公(17歳男)、階段から落ちると魔法少女に転生。
【2】承
憧れの女性アイドルに近づきたくて、オーディションを受ける。魔法の力で無双しデビュー。
【3】転
魔法の力を失いポンコツバレして炎上。引退。YouTuberを目指す。
【4】結
「転生したら魔法アイドルになった件」というYouTubeがバズる。
この4枚からスタート!
あとは思いついたエピソードやセリフをカードに書き挟み込んでいきましょう!
とはいえ……書き出して!
小説執筆のコツ②で「書き終わるためには、書き出すな」と言ったものの、当然「書き出さなければ書き終わりません」
ただ、書き出したい誘惑に打ち勝って得た「書き終わる」充実感は、作家にとって最高の喜びですよ。